お預かお預かりした時計はSEIKO SPEED TIMER、モデルナンバー6138-0040、通称「茶馬」や「ブルヘッド」の愛称で親しまれている、セイコーの自動巻クロノグラフですね。このクロノグラフは、垂直クラッチ式+コラム小イールで世界初の量産自動巻クロノグラフと言われているSEIKO Cal. 6139(1969年に諏訪セイコーの大木俊彦氏が開発)を発展させたCal. 6138Bが搭載されています。6139との違いは12時間積算計が加わっていることです。
1960年代後半、スイス・日本・アメリカの複数のメーカーが「世界初の自動巻クロノグラフ」を目指して開発を進めていました。
スイス勢はクロノマチックグループ(ホイヤー、ブライトリング、ハミルトン-ビューレン、デュボア・デプラ)が共同開発。ゼニスは独自にエル・プリメロを開発。セイコーは単独でCal. 6139を完成させました。1969年、セイコーはCal. 6139(スピードタイマー)を発表し、これは前述したように垂直クラッチ+コラムホイールを備えた非常に革新的なムーブメントで、世界最速級に市場投入されたと言われています(スイス勢とほぼ同時期ですが、市場発売はセイコーが先行した可能性が高いです)。
キャリパーの話が長くなりましたが、この垂直クラッチ式のクロノグラフのメンテナンスは初めてだったため、できるだけ資料を集めて、確認しながらオーバーホールを進めました。お預かりした時の状態は、時計、クロノ機能は稼働でしたが、スタート/ストップのプッシュボタンが戻らない症状がありました。これは分解、洗浄、注油で解決するかと思っていましたが、確認するとボタンの軸が変形して曲がっており、ご相談の結果、新品に部品交換させていただきました。
また外装では風防ガラスにかなりキズ入っていましたので、当初からのご要望通り交換をさせていただきました。純正品は中々手に入らず、入ったとしても高価なことから社外品を使用しました。形状で多少の違いがあるかもしれませんが、新しい風防に交換したことで印象がとても良くなったと思います。
また分積算計の動きが良くないところがありましたので、取付のあがき(隙間)の調整をいたしました。
尚、オーバーホール作業中に、リセットボタンハンマーのスプリングを私の不注意で紛失してしまったため、バネ製作をして対応しました事を報告いたします。申し訳ございませんでした。機能的には問題ないと思います。
以前からの症状であったと伺いましたが、クロノグラフのリセット帰零が少しスムースではありません。リセットボタンをなるべく深く押して、場合によっては複数回押して、戻してください。
防水機能については、日常生活防水の3気圧の防水機能を満たしておりませんので、非防水として注意してご使用ください。
今回、貴重なそして歴史的にも意味のあるクロノグラフのメンテナンスに関わることができ、大変感謝しております。色々と勉強させていただきました。
仕上がりにご不満な点、また不具合等がありましたら、何なりとご連絡をいただけますでしょうか。
ありがとうございました。
お預かり品 | ||
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メーカー/ Maker | セイコー/ SEIKO | |
時計/ Watch Name | スピード タイマー/ SPEED TIMER | |
形式/ Model | 6138-0040 | |
ムーブメント/ Movement | セイコー 6138B/ SEIKO 6138B | |
動力/ Power | 自動巻 / Automatic | |
タイプ/ Type | 5針 / 5 Hands |
メンテナンス内容 | ||
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オーバーホール/ Overhaul | ¥38,500- | |
部品交換:ガラス風防/ Parts: Glass wind shield | ¥8,000- | |
部品交換:クロノプッシュボタン/ Parts: Chronograph push botton | ¥5,100- | |
合計(税込) | ¥51,600- |